EVERYDAY MAKERS |タチアナ焙煎所

2023/12/13 EVERYDAY MAKERS

クリエイティブなコーヒー職人

知らずにふらりと立ち寄れて、帰る時には新しい友達ができているような、そんな温かい焙煎所がある。

「自分の友人と近所の人がサクッと来てくれて、入りづらくなくて緊張しないようなお店にできたらなって。」と話すのは、タチアナ焙煎所の店主、山下輝彦氏。上北沢の一軒家の一階部分にあるタチアナ焙煎所には、5席のカウンター席があり、小さいながらもここでのひと時を楽しみにオープンと共にお客さんが訪れる。

「お客さん同士も仲良くなる瞬間があるんで、そういうのは見てていいなって思うんですよね。」と語る。小さな店舗だからこそ山下氏とお客さんとの距離が近く、新しいお客さんとの出会いもより濃いものになる。タチアナ焙煎所は喫茶店の落ち着きと、コーヒースタンドとしてのカジュアルさが両立したお店だ。

元々アパレル業界で働いていた山下氏は、TVで放送されたお祭りでの珈琲屋台店を見て珈琲に興味を持ち、30歳の時に西小山のポエム(現在は閉店)でコーヒーの焙煎を学び始めた。サースデーコーヒースタンドという名前でリアカーでのコーヒー販売を経て、現在のタチアナ焙煎所を始めた。タチアナ焙煎所の名前の由来は、山下氏が一番好きな映画で、映画史上最もコーヒーを飲む映画と言えるほどコーヒーを飲むシーンが多い「愛しのタチアナ」から取ったという。

2年前にオープンしたタチアナ焙煎所では、コーヒーの焙煎からフード調理、そしてお店のロゴデザインまでも山下氏が1人で手がけている。

「絵を描くのもなんか特に上手いわけでもないので、彫刻刀で消しゴムスタンプみたいな。自分で全部完結できるから。」山下氏が5年前から始めたという彫刻スタンプは、今ではたくさんのデザインが揃っている。タチアナ焙煎所ブレンドコーヒーのパッケージには、愛しのタチアナの主人公と映画に登場するお花をイメージし、彫刻して作ったハンコが押されている。

「独立したのが結構遅いんで、やっと一人でやってるなって思う時が時々ありますね。そういう時誇らしい気持ちになります。」と語る。山下氏が作り上げる温かい空間がタチアナ焙煎所では広がっている。

コーヒーに注ぐ情熱

「豆を粉にした瞬間が一番いい匂いがする。一番匂いが広がる瞬間。」と山下氏。コーヒーの香りが広がるタチアナ焙煎所では、コーヒーを口で味わうだけではなく、嗅覚からも楽しむことができる。

コーヒー豆が焙煎によって割れる音、生の豆の匂いから香ばしさが出てくる香りの変化、豆の色合いを見ながら、温度を下げたり上げたり調整する。焦げるか焦げないかの狭間を狙い、集中して焙煎に取り組む姿はコーヒーに対する山下氏の情熱が感じられる。

「作る側の視点として、道具がとにかく好きですね。ああいうコーヒーを入れるのに必要な道具の見た目が好きで。最初やるって決めた時、そこから入ったんですけど。」と語る。タチアナ焙煎所で使われている焙煎機はサンプルロースターといい、大きな焙煎機で作る前にサンプル用を作るためのもので、1Kg以下の少量を焙煎する機械だ。多くのコーヒーショップで使用されている焙煎機では自動で行っている手順も、アナログに拘り手作業で行っている。

「生の豆をこうハンドピックするところから始める。常に釜自体を170度くらいにしといて、そこから豆を投入して僕の場合はぎゅっと蓋を閉めて、10分間くらい何も考えないで回している。10分経ってその蓋取ると、黄金色みたいになるので、そこから温度を変えてみたり、豆が割れていくパチパチという音を聞きながら回していく。」と語る。 山下氏は焙煎機の前で、豆の状態を見つつ、時には音楽を聞きながら、漫画や本を読みながらコーヒーと向き合う。

自分自身が1番美味しいと思うコーヒーを、タチアナ焙煎所のオリジナル感を足して提供している。タチアナ焙煎所のコーヒーは、コーヒーへの愛と情熱から作られている。

思い出のタイムカプセル

「焙煎所をオープンする前に奥さんとコーヒー作ったり、2人で壁塗ったりとか。店内を作ってた時が思い出深い。」と語る山下氏。奥さんと白く塗った壁は、2年の時を経て今ではコーヒーの焙煎や煙によって淡い黄色に変化し、独特の雰囲気を作り出している。

コーヒーによって淡く色が変化した壁には、ステッカーやポスター、山下氏のコミュニティと人生を垣間見れるような、思い出が詰まった写真などに覆われている。 「元々自分がお店始める前から持っていた、自分の身の周りの人が作った物とかを、お店始めたタイミングで全部引っ張り出して置いてったっていう感じ。あとステッカーとか落書きとかもらったものを全部こう壁に貼ってった感じです。」と店内の拘りを語る。

最初は山下氏のコレクションから始まったタチアナ焙煎所の壁だったが、コミュニティが大きくなると共に、毎日5席の小さなカウンターに集うお客さんの思い出や新しい作品もどんどん加わった。それらが焙煎の煙を被り、淡い黄色になる様は、ビンテージ写真のようでもある。訪れる人の思い出と歴史が詰まったタイムカプセルのようなお店、タチアナ焙煎所でコーヒーを1杯楽しんではいかがだろうか。

店舗情報:
タチアナ焙煎所 (@tatjanabuysenjo)
Tel:03-6379-8737
〒168-0073 東京都 杉並区 下高井戸 4-8-2