DICKIES RIDE ON
LOU PEACE DESIGN
挑戦する精神
「最初はお店の壁に勝手に描いていました」と鈴木氏はいたずらに笑います。彼女の姿勢はまさに「挑戦する精神」そのものです。例えば、ヘルメットのピンストライプは平面ではなく立体的な作業ですが、紙などに描いてからヘルメットに反映しようとするとうまくいかないため最初からヘルメットに筆を走らせると言います。初めて筆を手にするときも、自分のお店を始めるときも、考え込みすぎることなく、まずは試してみれば何とかなるだろうという前向きな姿勢で取り組んできた鈴木氏。ただ楽観的なわけではなく、そこには困難を一つ一つ乗り越えてきた強さが見受けられます。
平和から受け継いだDNA
20代の前半、鈴木氏は旅に出る手段としてバイクに乗り始めました。その魅力の虜となり、「HEIWA MOTORCYCLE」を訪れバイクをオーダーしました。件のバイクがホットロードショーに出展され、アワードを受賞。こうして始まったご縁をきっかけに、二人の冒険と歩みが始まります。彼女は木村氏のもとで多くのことを学びながらピンストライパー、イラストレーター、そしてデザイナーとして成長を遂げていきました。お店のロゴデザインを手がけたのも彼女です。
木村氏のもとで働いた10年間を通じて、鈴木氏が受け継いだDNAはなんといっても「オリジナリティを大切にすること」。それが意味するものは何かを間近で学んできた彼女のデザインには、他にはない光るものがあります。業界では周りや上を見れば終わりのない競争がありますが、鈴木氏はそれに惑わされることなく「自分にしか描けないものを大事にする」という信念を貫いてきました。その姿勢が、彼女のデザインに魅了されるファンを引き寄せているのです。「こういうのはおかしいんじゃないか、とか、流行っていないから、とかではなくて、自分が描きたいものを信じることが大切です。」
母の背中
独立した当時、鈴木氏のお子さんはまだ保育園児でした。お茶目だけれど少し恥ずかしがり屋。そんな一人息子の紘人君は、鈴木氏にとって目に入れても痛くない存在です。それでも実家から離れた場所で仕事と育児を両立するのは容易ではありませんでした。描く時間を確保できるのが夜中だけだったこともしばしばでした。自分のお店を運営し、家族と共に歩んできたこれらの年月。この過程で経験してきた苦労は、文章では表しきれないほどです。
決して軽くはないバイクを、倒れてしまってもガソリンまみれになりながら起こしてきたように、鈴木氏には「挑戦する精神」だけではなくやり抜く力、そして自分の力でできる全てを尽くす姿勢があります。
旅の手段として始めたバイクも、今では人生の相棒です。男性が多いバイク界で、女性として活躍をし続ける鈴木氏を見て、その真摯な姿に憧れる人もいるでしょう。ピンストライパー、デザイナー、ビジネスパーソン、女性、そして母として多くの役割を果たしながら歩んできた鈴木氏は、常に進化し続けるバイク界に新たな風を吹かせる力を秘めています。